収益性の向上や従業員の待遇改善を目指す取り組みに対し、最大500万円の支援が受けられる「宿泊施設経営力向上推進事業補助金」の令和7年度公募がスタートしています。
本記事では、宿泊施設経営力向上推進事業補助金の概要から活用事例、申請フローや注意点まで、制度を上手に活用するために知っておきたい情報をわかりやすく解説します。申請を検討中の方は、早めの準備に向けてぜひ参考にしてみてください。
目次
「宿泊施設経営力向上推進事業補助金」の概要と申請スケジュール
「宿泊施設経営力向上推進事業補助金」は、東京都内の宿泊施設が行う経営改善の取り組み支援を通して、観光産業の活性化を目指す制度です。主要補助金制度とは異なり、東京都の観光業振興を担う「公益財団法人東京観光財団」が実施しています。
具体的には、専門家の助言をふまえた経営改善計画を策定・実行し、向上した収益の一部を従業員の待遇改善に充てる宿泊事業者に対して、施設改修にかかる費用の一部を交付する補助金制度です。
補助率や補助上限金額は下記の通りとなっています。
【宿泊施設経営力向上推進事業補助金の補助率・補助上限金額】
- 補助率:2/3(中小事業者は3/4)
- 補助上限金額:500万円
なお、申請にあたっては下記の要件を満たす1年間の事業計画を策定する必要があります。
【宿泊施設経営力向上推進事業補助金の申請要件】
①申請時点の直近決算期と比較して、事業計画期間(※1)の全従業員(非常勤を含む、役員は除く)に支払った給与・賃金・賞与の総額を2.0%以上増加させること
②事業計画期間(※1)において申請施設(事業場)内の最低賃金(※2)を法令上の東京都内最低賃金+30円以上の水準にすること
※1:助成事業の終了後に開始する決算期1年間
※2:最低賃金は毎年10月1日に更新されます
申請期間は令和7年(2025年)4月21日(月)から翌年の令和8(2026年)年3月31日(火)までとなっています(消印有効)。ただし、予算上限に達した場合は早期終了となります。
高い補助率、大規模な改修に活用できる補助上限金額が魅力の補助金ですが、申請にあたって東京観光財団が派遣する専門家による支援を受ける必要があり、他補助金制度と比較して申請準備に期間を必要とします。早期終了の可能性もふまえると、早めに申請準備に取り掛かるのがおすすめです。
宿泊施設経営力向上推進事業補助金の活用イメージ
宿泊施設経営力向上推進事業補助金の募集要項には、活用イメージとして「収益力の向上」「客室販売価格・客単価の向上」を目的とした改修・施設整備例が紹介されています。
【宿泊施設経営力向上推進事業補助金の活用事例】
・収益力を向上させるための改修
→使われなくなった広間を客室へ改修、整備する
→長期滞在利用に対応するための施設整備
・客室の販売価格や客単価を向上させるための改修
→客室貸切露天風呂の設置
→ドミトリーの個室客室化に向けた施設整備
補助対象となる宿泊施設
宿泊施設経営力向上推進事業補助金の対象となるのは、以下のすべての要件を満たす東京都内の宿泊施設です。
【宿泊施設経営力向上推進事業補助金の補助対象施設】
①旅館業法に基づく営業許可を受けていること
→申請日時点で、旅館業法(昭和23年法律第138号)第3条第1項の許可を受け、同法第2条第2項(ホテル・旅館営業)または第3項(簡易宿所営業)に該当する営業を1年以上継続して行っている施設
②直接雇用された従業員が常駐していること
→補助対象施設に、補助事業者が直接雇用し、かつ専ら当該施設に常駐して運営に従事する従業員が存在すること
なお、同一の事業計画・経費で別の補助金制度へ申請している場合、過去に本事業の支援を受け、申請事業が完了していない場合、都税その他租税の未申告または滞納がある事業者などは補助対象外となります。
申請にあたっては、施設の営業実態や雇用状況が要件を満たしているかどうか、事前に十分な確認が必要です。
補助対象となる経費
宿泊施設経営力向上推進事業補助金の補助対象となる経費は、大きくわけて「施設整備費」「環境整備費」の2点です。
【宿泊施設経営力向上推進事業補助金の対象経費】
施設整備費
→施設改修工事費
→電気工事費
→設備工事費
→附帯設備および工事費
→施工管理委託費
→立ち合い検査費
→その他必要と認める経費
環境整備費
→工事に伴う設備・備品の購入費
(施設整備費と同時申請時のみ対象)
なお、中古品の購入経費や間接経費(通信費や水道光熱費など)、設備維持費、リース・レンタル経費などは補助対象外となります。申請を検討している経費が対象となるか気になる方は、専門家への無料相談なども活用してみましょう。
申請から補助金交付までの流れを5ステップで解説
宿泊施設経営力向上推進事業補助金は、専門家による支援を経た上での申請準備、事業実施が必要な補助制度です。以下に、補助金交付までの基本的な流れを5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:専門家派遣の申込
補助金申請に先立ち、まずは東京観光財団が選定する専門家の派遣申込を行いましょう。申込を受けて観光事業や経営分野に精通した専門家が施設を訪問し、課題分析や改善方針の助言を行います。なお、必要性が認められた場合はオンライン形式で支援が実施されることもあります。
【専門家派遣の申込要項】
申込期間 | 令和7年4月1日(火)~11月30日(日)※消印有効 |
申込方法 | ホームページからダウンロードした必要書類を郵送 |
専門家派遣費用 | 無料(東京観光財団が負担) |
専門家派遣回数 | 1年度あたり1施設につき最大3回 |
専門家派遣期間 | 派遣決定通知日から6か月以内 |
ステップ2:経営改善計画の策定
派遣された専門家の助言を受けて、申請者自身が「経営改善計画書」を策定します。派遣された専門家には計画書の策定は依頼できない点に注意しましょう。
なお、経営改善計画書の様式は、東京観光財団のホームページからダウンロードが可能です。各種必要事項を記入しつつ、専門家の助言内容を反映した計画を策定してください。
ステップ3:補助金交付申請
経営改善計画が完成したら、申請に必要な書類を作成し交付申請を行います。
宿泊施設経営力向上推進事業補助金は郵送申請と電子申請の2通りの申請方法があり、それぞれで必要書類のダウンロード先が異なります。郵送申請の場合は東京観光財団のホームページより、電子申請の場合はjGrantsの当該補助金ページよりダウンロードしましょう。
電子申請は当日中に申請が可能ですが、利用にあたっては「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要です。アカウント発行には2~3週間かかるケースもありますので、経営改善計画の策定とあわせて、事前に取得しておくことをおすすめします。
なお、申請額が予算上限に達した場合、期間内でも受付終了となります。利用を検討されている方は、早めに申請準備に取り掛かりましょう。
GビズIDプライムアカウントの取得については、下記の記事もあわせてご確認ください。
GビズIDプライムはオンライン手続きが可能!申請方法や2段階認証設定を解説
ステップ4:審査・交付決定
提出された申請書類は、資格審査と審査会による評価を経て、補助の可否が決定されます。審査会では、「妥当性」「効果」「収益性」「実現性」の観点から審査されます。
【宿泊施設経営力向上推進事業補助金の審査項目】
・妥当性
→経営改善計画が補助金の趣旨や目的と合致しているか
→経営改善計画に専門家の助言内容が反映されているか
→経営改善計画で設定している目標が適切か
・効果
→当該宿泊施設の経営力向上に資する事業か
→地域需要創出、都内観光産業の活性化につながる事業か
・収益性
→市場動向や競合の分析、ターゲティングが適切に行われているか
→集客や販路開拓の方法が適切か
・実現性
→施設改修や備品購入などの作業スケジュールが適切か
→無理のない実施体制、資金計画となっているか
審査結果は後日メールで通知され、適当と判断された場合に交付決定通知書が発行されます。なお、審査会の日程によっては申請から交付決定までには、最大で約3か月ほどかかる場合があります。
ステップ5:補助事業の実施・完了
交付決定後、施設改修等の補助対象事業を実施します。契約、施工、代金の支払いまでを、交付決定から1年の「事業実施期間」内で完了する必要があります。
事業完了後は30日以内に、必要書類を添えて実績報告書を提出します。実績報告に必要な書類は、東京観光財団またはjGrantsの当該補助金ページよりダウンロードが可能です。書類提出後には財団による現地検査や書類確認が実施され、内容の妥当性が確認されます。
報告内容が適切と認められれば、補助金の交付額が確定し、確定通知書が届きます。請求書を提出すると、指定口座に補助金が振り込まれます(入金までには約1か月かかります)。
宿泊施設経営力向上推進事業補助金に申請する際の注意点
「宿泊施設経営力向上推進事業補助金」の申請にあたっては、複数の注意点が設けられており、要件を満たさない場合は補助対象外となったり、補助金の返還を求められることがあります。ここからは、特に注意すべきポイントをご紹介します。
交付決定前の着手は補助対象外となる
施設の契約、発注、改修工事、備品購入などは、補助金の交付決定通知を受けた日以降に実施しなければなりません。交付決定前に着手した経費は補助の対象外となります。
また、契約・施工・支払いまでを1年間の事業期間内に完了する必要があります。支払が完了していない場合、補助金の対象外となる点に注意が必要です。
経費の支払い方法に制限がある
経費の支払いは「申請者名義の口座からの口座振込」が原則であり、クレジットカードやポイント利用、現金支払い等は原則認められません。やむを得ず使用する場合は、補助対象から除外されることがあります。
また、補助事業に関連する見積書、契約書、請求書、領収書、写真、通帳写し等は、事業完了日の属する会計年度終了後5年間保存する必要があります。
申請額を下回る交付金額となる場合がある
審査の結果によっては、交付決定額が申請額を下回ることがあります。また、事業終了後の実績によっては、最終的な補助額が変動する場合もあります。
取得財産の管理・処分には制限がある
宿泊施設経営力向上推進事業補助金で取得した備品・設備(取得額50万円以上)は、処分に制限が設けられます。耐用年数内に処分・譲渡する場合は、事前に財団の承認が必要です。無断処分や転用が確認された場合、補助金返還の対象となる点に注意しましょう。
まとめ
「宿泊施設経営力向上推進事業補助金」は、東京都内の宿泊施設を対象に、経営改善や収益力向上を後押しする制度です。
最大500万円という手厚い補助が受けられる一方で、専門家の助言を取り入れた経営改善計画の策定や、賃金引上げの実施といった明確な要件があるため、制度を理解したうえでの実現可能性の高い計画策定や、早めの申請準備が不可欠です。
採択可能性を高めたい方、スムーズに申請準備を進めたい方は、補助金の申請・採択実績を持つ中小企業診断士や行政書士などの有資格者への相談を検討してみましょう。「補助金の窓口」では、申請に関する疑問点や活用できる補助金などについての無料相談を実施しています。ぜひお気軽にご活用ください。