本記事では、小規模事業者や個人事業主でも申請できる「ものづくり補助金」について解説します。
補助内容や対象となる業種、実際の採択事例などもご紹介。さらに、申請を検討されている方に向けて、申請の流れや採択率を高めるポイントまで解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
小規模事業者や個人事業主も申請可能な「ものづくり補助金」とは?
「ものづくり補助金」(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)は、中小企業や小規模事業者などが、生産性向上を目的とした革新的な製品・サービス開発や設備投資等を行う際に活用できる補助制度です。
現在実施されている第19次公募(2025年4月公募)では、革新的な新製品・サービス開発を支援する「製品・サービス高付加価値化枠」、海外事業の実施を通して国内生産性を高める取り組みを支援する「グローバル枠」への申請が可能です。
製品・サービス高付加価値化枠 | グローバル枠 | |
補助上限金額(※1) | 従業員数に応じて変動 5人以下:750万円 6~20人:1,000万円 21~50人:1,500万円 51人以上:2,500万円 |
3,000万円 |
補助率(※2) | 中小企業:1/2 小規模事業(企業)者:2/3 再生事業者:2/3 |
中小企業:1/2 小規模事業(企業)者:2/3 |
※1:「大幅な賃上げに係る補助上限額引上げの特例」の活用で最大1,000万円の補助上限金額の引き上げあり
※2:「最低賃金引上げに係る補助率引上げの特例」の活用で補助率2/3への引き上げあり
なお、対象となる経費は一部を除き両申請枠共通です。
【ものづくり補助金の対象経費】
・機械装置・システム構築費(必須)
・技術導入費
・専門家経費
・運搬費
・クラウドサービス利用費
・原材料費
・外注費
・知的財産権等関連経費
「グローバル枠」のうち海外市場開拓(輸出)に関する事業のみ、以下の経費も補助対象に含まれます。
【グローバル枠(海外市場開拓(輸出))の対象経費】
・海外旅費
・通訳・翻訳費
・広告宣伝・販売促進費
ものづくり補助金の補助対象となる小規模事業者や個人事業主
ものづくり補助金の公募要領には、補助対象者として「中小企業等経営強化法」に規定する「中小企業者」と記載があり、下記の業種・定義に当てはまる小規模事業者・個人事業主であれば補助金の対象者となります。
業種 | 定義 |
製造業、建設業、運輸業、旅行業、その他 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社又は個人 |
ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が900人以下の会社又は個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社又は個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社又は個人 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社又は個人 |
旅館業 | 資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が200人以下の会社又は個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5,000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が50人以下の会社又は個人 |
幅広い業種を対象とした補助金になっており、地域で活動する個人事業主や小規模な法人でも、新たな設備導入やサービス開発といった前向きな投資に活用しやすい制度となっています。
なお、申請時には「事業計画書」をはじめとした複数の書類を提出し、審査を経て採択される必要があります。必要書類をはじめとした制度詳細については、下記の記事も参考にしてみてください。
ものづくり補助金とは?2025年の申請方法や対象事業、金額などを解説
小規模企業者・小規模事業者は補助率の引き上げを受けられる
補助対象者のうち、下記の条件に当てはまる事業者は「小規模企業者・小規模事業者」として補助率が2/3に引き上げられます。
業種 | 定義 |
製造業、その他 | 常時使用する従業員の数が20人以下の会社又は個人 |
商業・サービス業 | 常時使用する従業員の数が5人以下の会社又は個人 |
宿泊業・娯楽業 | 常時使用する従業員の数が20人以下の会社又は個人 |
なお、「小規模企業者・小規模事業者」については対象となる業種分類が詳細に指定されています。小規模企業者に分類される業種は下記の通りです。
※ものづくり補助金公式サイト:「別紙2 業種分類について」より引用
また、従業員20人以下で「宿泊業」「娯楽業」を営む事業者は小規模事業者に分類されます。
個人事業主はものづくり補助金で採択されにくい?
ものづくり補助金では、審査項目として「経営力」「事業性」「実現可能性」が明記されています。中小企業と比較して事業規模や従業員数、財務状況などの面で劣る個人事業主は、審査においてシビアな判断を下される可能性があります。
個人事業主がものづくり補助金に採択されるには、下記3点を意識した事業計画の策定が必要と言えるでしょう。
【個人事業主が意識すべきポイント】
・財務状況の安定性を示せるか
・競合他社と比較して革新性を持っているか
・組織構造に即した実現可能性の高い事業を計画しているか
小規模事業者・個人事業主の活用事例5つを紹介
続いては、実際の採択事例より小規模事業者や個人経営のサービス業による実際の申請・活用事例をご紹介します。申請の参考資料としてぜひご活用ください。
【事例①:地元食材にこだわった新メニュー開発と働き方改革の実現(佐賀県)】
新商品開発と人手不足の解消を目的として、包装機・包餡機を導入。生産性を大幅に向上させるとともに、労働環境を改善させ、ステークホルダーへの価値提供を実践した。さらに、開発した新商品を活かした異業種の事業展開にも取り組んでいる。
【事例②:IoT化による業務効率の大幅な向上を実現(山口県)】
最新機器の導入によるネットワーク技術・自動化技術を活用した金型生産システムを構築することで、若手社員でも高い生産効率を発揮できる環境を実現。さらに、不良率の大幅低減も達成した。
【事例③:カウンセリングのオンライン化により大型案件を受注(神奈川県)】
予約制の対面カウンセリングが持つデメリットを解消するため、既存技術である「声による思考パターン分析」を活用したオンライン形式のカウンセリングシステムとスマホ・クレジットカード決済機能を導入。大企業からの案件受注につながった。
【事例④:部品加工体制の充実化によるテレワーク導入(岡山県)】
加工する部品の大型化に対応するため、大規模機器を導入するとともに自動化にも着手。遠隔監視システムとの組み合わせによりテレワークを導入した。受注量の拡大にともない、社員数も増加。将来的な工場増設を検討している。
【事例⑤:業務用ドローンの導入により新規取引先を開拓(島根県)】
塗装工事の人手不足を解消するため、赤外線カメラによる外壁調査が可能な業務用大型ドローンを導入。AI技術との組み合わせにより工期・費用の削減にも成功した。公共施設からの法定点検の依頼増加に伴い、取引をBtoBからBtoCへとシフトし始めている。
小規模事業者・個人事業主がものづくり補助金に申請する際の流れ
ものづくり補助金は、小規模事業者や個人事業主でも申請可能ですが、初めての方にとっては「どうやって申請すればいいの?」と戸惑う場面も多いかもしれません。ここでは、2025年度・第19次公募のスケジュールや公募要領を参考に、申請の一般的な流れをご紹介します。
GビズIDプライムアカウントの取得
ものづくり補助金の申請は「Jグランツ」という電子申請システムを通じて行いますが、Jグランツを利用するにはオンラインIDである「GビズIDプライムアカウント」が必要です。
GビズIDプライムアカウントはオンライン申請であれば即日発行が可能ですので、下記記事を参考に取得を進めましょう。
GビズIDプライムはオンライン手続きが可能!申請方法や2段階認証設定を解説
事業計画の策定
ものづくり補助金の申請において、事業計画書は採択の可否を左右する重要な要素です。策定にあたっては、定性的・定量的な情報に基づく「具体的な説明」を心がけましょう。
事業計画書では、自社の課題を明確にし、その解決策として補助事業を位置づけることが重要です。例えば、「生産効率の低下」や「市場ニーズへの対応不足」といった課題を挙げ、それに対する具体的な対応策を盛り込み、事業の必要性を示しましょう。
また、競合他社との差別化・革新的な取り組みを明確に示すことも大切です。策定にあたっては、自社(内部環境)だけでなく業界や地域産業(外部環境)の分析にも取り組むべきと言えます。
必要書類の準備
申請には事業計画書以外にも、以下のような書類が必要となります。
【小規模事業者・個人事業主が申請の際に提出する書類】
・決算書など(個人事業主は確定申告書)(直近1〜2期分)
・従業員数の確認資料
小規模事業者と個人事業主で一部提出書類が異なる点に注意しましょう。また、書類以外にも「補助経費に関する誓約書」「賃金引上げ計画の誓約書」など、電子申請システムで入力が必要な項目があります。
Jグランツでの電子申請
すべての書類がそろったら、GビズIDプライムアカウントでログインし、「Jグランツ」からオンライン申請を行います。
提出内容に不備・不足があると審査対象から外れ不採択となります。提出前には必ず内容の確認を行いましょう。
2025年度ものづくり補助金の公募スケジュール
2025年度・第19次公募のスケジュールは下記の通りです。
【2025年・第19次公募のスケジュール】
公募開始(公募要領の告示):2025年2月14日
電子申請受付:2025年4月11日(金)17:00~
申請締切:2025年4月25日(金)17:00
採択結果の公表:2025年7月下旬(予定)
申請の受付開始から申請締切までは2週間と短めの期間となっており、今後の公募においても同様のスケジュールとなる可能性が高いと考えられます。申請を検討する場合、受付開始前から事業計画の策定や書類の準備を進めておきましょう。
なお、第20次公募のスケジュールは発表されていませんが、2025年夏以降の実施が予想されます。
小規模事業者や個人事業主が採択率を高めるには?
2024年度におこなわれた第18次公募の採択率は35.8%(5,777件の応募に対して採択件数が2,070件)となっており、過去の採択率を見ても高いとは言えない数値で推移しています。
そこでここからは、採択率を高めたい小規模事業者や個人事業主に向けて、ものづくり補助金に申請する際に意識すべきポイントをご紹介します。
加点項目を意識した事業計画の策定
ものづくり補助金では、一定の条件を満たすことで採択に有利となる「加点項目」が設けられています。過去の公募(第16次公募)でも採択事業者の多くが1~3項目の加点項目を満たしたうえで申請しており、採択率向上における最も重要な要素だと言えるでしょう。
2025年度・第19次公募での加点項目は下記の通りです。
【第19次公募の加点項目】
①経営革新計画
②パートナーシップ構築宣言
③再生事業者
④DX認定
⑤健康経営優良法人認定
⑥技術情報管理認証
⑦J-Startup、J-Startup地域版
⑧新規輸出1万者支援プログラム(グローバル枠のみ)
⑨-1事業継続力強化計画/連携事業継続力強化計画
⑩賃上げ
⑪被用者保険
⑫えるぼし認定
⑬くるみん認定
⑭-1事業承継/M&A
⑮成長加速マッチングサービス
上記のうち、最大6項目について加点申請が可能です。なお、加点項目を活用する際は申請準備として専門家への相談をおすすめします。自社がどの項目を申請できるかの診断とあわせて、書類作成のアドバイスなどを受けられるでしょう。
必須項目である「基本要件」の目安
ものづくり補助金の必須提出書類である事業計画書には基本要件である「付加価値額の増加要件」「賃金の増加要件」「事業所内最低賃金水準要件」を将来的にクリアする旨を盛り込まなければなりません。
申請する企業の付加価値額は営業利益+人件費+減価償却費で算出されます。これら3項目の増加予想値を、平均で3.0%以上になるよう算出根拠を添えて説明しましょう。
賃金(給与支給総額)は、全従業員(非常勤を含む)及び役員に支払った給与等(給料、賃金、賞与および役員報酬等は含み、福利厚生費、法定福利費や退職金は除く)を年率平均2.0%以上にする必要があります。ちなみに、個人事業主で従業員がいない場合は、役員報酬を増加させることで給与支給総額の要件を満たすことができます。
なお、2024年度・第18次ものづくり補助金採択者の付加価値額の年平均成長率中央値は「9.1%」、給与支給総額の年平均成長率中央値は「4.0%」となっています。
最後に最低賃金は、都道府県ごとに定められている水準に30円以上上乗せした金額を盛り込みます。例えば、2025年2月現在で東京都の最低賃金は時給1,163円ですので、東京都の事業者の場合は全従業員を最低でも時給1,193円以上の待遇にしておく必要があります。
ものづくり補助金とあわせて検討したい「小規模事業者持続化補助金」
「ものづくり補助金」と並んで、小規模事業者や個人事業主におすすめしたいのが販路開拓や業務効率化にかかる費用を幅広く支援してくれる「小規模事業者持続化補助金」です。
その名のとおり「小規模事業者」の成長と持続的経営をサポートすることを目的にした制度で、法人はもちろん、個人事業主も対象であり、従業員が5人以下のサービス業や10人以下の製造業など、小規模な体制でも申請しやすく設計されています。
また、補助率は最大で3/4、補助上限も各種特例を活用することで最大250万円まで引き上げられます(一般型・通常枠の場合)。広告宣伝費やウェブサイト制作費など、日常的な経営活動に直結する費用が補助対象となる点も、小規模事業者にとって使いやすい理由のひとつです。
【小規模事業者持続化補助金(一般型・通常枠)の概要】
補助上限額:基本は50万円、特例により最大250万円まで拡大可能
補助率:2/3 または 3/4(特例該当時)
対象経費:機械装置等費、広報費、ウェブサイト関連費、展示会等出展費、委託・外注費など
ものづくり補助金と比較した際のそれぞれの特徴は下記の通りです。
ものづくり補助金 | 小規模事業者持続化補助金 | |
主な目的 | 革新的な新製品・サービスの導入 | 販路開拓、経営基盤の強化 |
補助上限金額 | 最大3,500万円(※1) | 最大250万円(※2) |
補助率 | 1/2または2/3 | 定額または2/3、3/4 |
対象経費 | 機械装置・システム構築費、技術導入費など | 広報費、ウェブサイト関連費、展示会出展費など |
※1:製品・サービス高付加価値化枠で特例適用時
※2:一般型申請時
「新しい設備を導入して事業の柱を作りたい」ならものづくり補助金、「今ある商品をもっと広めたい」なら小規模事業者持続化補助金というように、目的に応じて選ぶのが効果的です。
小規模事業者持続化補助金の制度詳細については、下記記事からご確認ください。
2025年の小規模事業者持続化補助金について解説!対象者や金額、変更点をご紹介
まとめ
ものづくり補助金は、小規模事業者や個人事業主でも十分に活用できる制度であり、革新的な製品やサービスの開発、業務効率化などを目指す際に心強い支援策です。第19次公募では補助上限や補助率も明確に示されており、特に小規模事業者には最大2/3の補助率が適用されるなど、ハードルを下げた設計になっています。
ただし、個人事業主が採択されるには、事業の実行可能性や計画の説得力、財務の安定性などが問われるため、入念な準備が必要です。加点項目の活用や基本要件の的確な達成計画など、審査ポイントを意識した書類作成が採択率向上の鍵となります。
また、「今ある商品やサービスを広めたい」「販路を開拓したい」という目的であれば、小規模事業者持続化補助金の活用も非常に有効です。補助対象経費の性質や上限額、申請サポート体制などを比較し、自社にとって最適な補助金を選ぶことが成功への第一歩です。
当社では、補助金申請に不慣れな個人事業主・小規模事業者の方に向けて、事業計画の立案から申請書類の作成支援まで、専門のコンサルタントが一貫してサポートいたします。申請をご検討中の方は、まずはお気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. 個人事業主でも申請できますか?
はい、申請可能です。ものづくり補助金では「中小企業者等」の中に個人事業主も含まれており、要件(業種ごとの従業員数など)を満たせば法人でなくても申請できます。
Q2. 個人事業主は採択されにくいと聞きましたが本当ですか?
個人事業主は中小企業と比べて事業規模や体制面で審査上やや不利になる傾向がありますが、事業計画の完成度が高ければ採択される可能性は十分にあります。実際に採択された事例も複数紹介されています。
Q3. 設備導入ではなく、広報費や広告費も対象になりますか?
原則として、ものづくり補助金では「機械装置・システム構築費」が主な補助対象となります。広報費・広告費などを活用したい場合は、「小規模事業者持続化補助金」の方が適している可能性があります。
Q4. 申請準備にはどれくらいの時間が必要ですか?
事業計画書の作成、必要書類の収集、GビズIDの取得などを含めると、1ヶ月程度の準備期間を見込んでおくと安心です。公募開始前からの準備が採択の鍵になります。
Q5. 補助金はいつ受け取れますか?
採択後、交付決定を経て実際の事業を実施し、完了報告・経費精算手続きが完了したのちに補助金が支払われます。事業実施から受給までには数ヶ月かかるため、資金繰りの計画も必要です。