事業再構築補助金が、飲食店で採択されるために知っておくべき基本

事業再構築補助金飲食店

新型コロナウイルスによる感染拡大や、経済活動の落ち込みによって、特にレストランや居酒屋、定食屋などの飲食店は、売り上げ不振に苦しんでいる店舗が多いです。

特に、緊急事態宣言・外出自粛要請の影響で、客足が遠のいて、廃業にまで追い込まれた店も少なくありません。客同士の距離が近く、いわゆる「ソーシャルディスタンス」を保てないおそれがあり、さらに居酒屋では酔客が騒いで飛沫が飛びやすく、それで感染が拡大する可能性が高いからです。

飲食店では、賞味期限の短い食材を使うことが多く、もし、客が来なければすべて廃棄しなければなりません。かといって、食材を全く仕入れないわけにもいきません。コロナ禍で店を開け続けるのも死活問題です。店を閉めても家賃などの固定費は支払い続けなければなりません。

自治体などが独自に、苦境に陥った飲食店を救済する現金給付などを行っていますが、それだけでは赤字を脱却できない店も少なくないのです。

しかし、この厳しい状況の下でも、経営者や従業員同士で知恵を出し合って、今までにないサービスを展開したり、新たな事業に進出したりして、状況を打開しようとする飲食店もあります。

そのような飲食店のチャレンジを後押しするのが、2021年に始まる「中小企業等事業再構築推進補助金」(事業再構築補助金)です。

ただし、初めて行われる補助金事業のため、美容室のどのような新チャレンジに対して、補助を受けられるのか、不明確な点もあります。

2021年3月時点で公表されている内容を読み解くことによって、飲食店で事業再構築補助金が採択される可能性が高い新たな取り組みについて解説します。

事業再構築補助金の「対象外」になる取り組みとは?

事業再構築補助金は、今まさにコロナ禍で苦しんでいて、打開策を打ち出そうと新しい分野に挑む飲食店や、アフターコロナ時代の経済社会の変化まで見据えて対応するための、企業の思い切った事業再構築を支援する目的で、1兆円を超える国家予算が組まれています。

申請の募集が始まるにあたり、事業再構築補助金が求める条件が、今まで想定されていたものよりも厳しい可能性があることが、徐々に明らかになっています。

まず、明らかに採択の対象外となる新たな取り組みの種類について押さえておきましょう。

新製品・新サービスの投入をしない場合

これまで製造したことがない新製品を製造していない、あるいは、これまで提供していないサービスを開始していない場合は、事業再構築補助金の対象外です。

ただし、非製造業でサービスの提供方法を変更する「業態転換」では例外的に対象となります。飲食店は非製造業にあたりますので、詳しくは「業態転換」の項目で説明します。

飲食店の場合、過去に提供していたテイクアウトや出前のサービスを、コロナ禍による業績不振をきっかけにして再開する、などの取り組みは補助対象外となる可能性が高いです。

競合するライバル企業の多くが、すでに着手している製品・サービス・製造方法

他の飲食店では、すでに当たり前になっているサービスを、新たに始めただけならば、ただ業界内で出遅れていたのを追いつこうとしているだけですので、補助対象外となります。
なぜなら、事業再構築補助金が導入された理由である「企業の思い切った事業再構築を支援する目的」に該当しないからです。

すでにある製品・サービスの提供増量、簡単な改良、単に組み合わせを変えただけの場合

たとえば、飲食店スタッフの増員や客席の増設、大盛り・特盛りメニューなどの追加、刺身の盛り合わせで、食材の組み合わせを変えるなどの取り組みは、創意工夫の面で補助金という公金によってサポートしなければならない意義や必然性が薄いと判断されるため、やはり「企業の思い切った事業再構築を支援する目的」にあたらず、補助対象外となります。

すでにある設備で製造できる商品、提供できるサービスである場合

事業再構築補助金を受けるためには、新たな「設備投資」をしていることが一般的に求められます。

たとえ、新たな商品を開発したり、新たなサービスを提供したりしているとしても、それが今まで通りの設備を使ってできるのであれば、補助対象外となります。

汎用性のあるデジタル機器やソフトを新たに導入しただけの場合

たとえ新たな取り組みに使うためであっても、パソコン・スマートフォン・カメラなど、飲食店の業務以外でもさまざまなことに使える設備投資は、そもそもすべての補助金で対象外となります。

新たに導入するのでしたら、お客様に食を提供する目的専用で使える設備であることが望ましいです。たとえば、定食屋での食券機や、料理のできあがりの番号案内システムなどです。

既存事業の売上を減らしてしまう

新たな取り組みが、今までの取り組みとの間で、顧客を食い合ってしまう関係にある場合は、補助の対象外になります。飲食店全体としての売上が向上しにくいのであれば、補助金でサポートしてまで新たな取り組みを始める必要性が薄れると考えられるからです。

もし、今まで提供していた料理と、ほぼ同じ見た目や味で、より安いメニューを新たに発売するならば、今までのメニューの売上を下げる可能性が高いので、対象外となります。

事業再構築補助金の「対象」になる取り組みとは?

以上に挙げたような「対象外の例」を踏まえまして、改めて対象となる例について挙げていきます。

事業再構築補助金の対象になるためには、飲食店の新たな取り組みが、この補助金事業が求める事業再構築指針、つまり「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」の4つのうち、いずれかに当てはまっていなければなりません(もうひとつ「事業再編」もありますが、大規模に全国で多数店舗をチェーン展開しているようなグループ企業でない限り、ほとんどの飲食店では当てはまらないと考えられますので割愛します)。

飲食店であることは変えない ― 新分野展開

新分野展開は、飲食店が飲食店であり続けたまま、新商品を開発し、新たなマーケットに進出することです。
たとえば、鶏肉料理を専門に提供していた大衆居酒屋が、新たに高級なシャモを使った新メニューを開発し、販売する場合などです。

・製品等の新規性(※すでに出した商品の改良版や増量版などでないこと)
・市場の新規性(※既存顧客を減らさないこと)
・総売上高の10%以上を占めること
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。

飲食業界にいたまま、別ビジネスに挑戦 ― 事業転換

業界は変えないまま、違うジャンルのビジネスに進出する場合です。
総務省の日本標準産業分類に沿えば、飲食店は大分類「M.宿泊業,飲食サービス業」に入りますが、大分類が共通している別ジャンルの領域(宿泊業・持ち帰り配達サービス業など)に進出する場合が対象です。

・製品等の新規性
・市場の新規性
・総売上高のうち、新事業による売上の占める割合が最大
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。

飲食業界をも抜け出してチャレンジ ― 業種転換

業界も変えて、別業種に進出することです。
美容室であれば、大分類からそもそも異なる別業種のビジネス(不動産業・農業・漁業・教育・福祉など)に進出する場合が対象です。

・製品等の新規性
・市場の新規性
・総売上高のうち、新業種による売上の占める割合が最大
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。

飲食サービスの提供方法を変える ― 業態転換

飲食店であることは変えず、新商品や新サービスも投入せず、今まで通りのサービスのまま、その提供方法を変えることです。
非製造業の飲食店であれば、次の条件をすべて満たさなければなりません。
・既存の設備を一部または全部撤去していること あるいは、IT技術を新たに活用していること
・総売上高のうち、新提供方法によるサービス売上の占める割合が最大

メニューはそのままでも、もし、ホールスタッフとの接触回数を避けるために、客席でのオンライン注文システムを開発したのであれば、たとえ、各席のタブレット端末は一般の家電量販店で売られているような製品でも、注文を管理するITシステムなどに関して補助の対象になる可能性があります。