事業再構築補助金が、製造業で採択されるために知っておくべき基本

事業再構築補助金製造業

※2023年(令和5年度)4月新年度補助金申請相談受付中!

国内の産業の約2割を占める製造業は、「ものづくり国家」日本のアイデンティティを支える重要な位置づけといえます。ただし、新型コロナウイルスによる感染拡大や、経済活動の落ち込みによって、売上が大きく減少したメーカー系企業は多くあります。

特に、緊急事態宣言・外出自粛要請の影響で、大半の製造業の売上は大きく減少しました。サービス業と違って、顧客と近い距離で接触する機会は少ないものの、サービス業で売上が低迷したあおりが、製造業にも影響を及ぼしているのです。

製造業で、最も大きな影響を受けているのが、コロナ禍によって国際線の運航が完全に断絶された航空業界です。国内線も大幅な減便を余儀なくされており、需要が大きく低下しているのです。
航空機の製造やメンテナンスに関わる人材も稼働できなくなっています。材料となる大型のタイヤや炭素繊維(FRP)なども、需要が低下しています。

工場での製造環境も変わってきています。
そもそも、外国人の人材を多く採用してきた工場では、母国から帰国命令が出て、人材不足に陥り、稼働できない状況に陥ったところもあります。海外から原材料を輸入してきた工場でも、調達が困難になり、稼働環境が大きく変わっています。

コロナ前に産業用ロボットを積極導入できていた工場はほぼ変化ありませんでしたが、ロボットの導入が遅れていた工場は、作業員同士のソーシャルディスタンスの確保のため、オペレーションの全体的な変更を余儀なくされています。

外出自粛要請の影響で、人々がおしゃれをしようとする動機が減退し、アパレルの需要も減っています。ひいては、繊維産業も大打撃を受けました。代表的な出来事はレナウンの破産ですが、ほかの繊維メーカーの多くも新型コロナによって、売上を回復できずにいます。

その一方、製造業の企業の中には厳しい状況にも負けず、新しい取り組みによって果敢に状況を打開していこうとする動きもあります。その結果、コロナ後の時代にも強い企業体質へと生まれ変わっていくと期待できます。日本政府としても、自国経済を支える製造業のチャレンジをバックアップしていく姿勢です。

それが、2021年に始まった「中小企業等事業再構築推進補助金」(事業再構築補助金)です。

ただし、初めて行われる補助金事業のため、製造業のどのような新チャレンジに対して補助が行われるのか(行われないのか)、明らかになっているところも少なくありません。

そこで、2021年3月時点で経済産業省や中小企業庁などが公表している内容を読み解くことにより、事業再構築補助金が採択される可能性が高いと考えられる新たな取り組みの種類について解説します。

事業再構築補助金の「対象外」になる取り組みとは?

事業再構築補助金は、新型コロナウイルスによる経済的な打撃に対応し、さらには将来、コロナ後の時代に過去の常識を前提としない経済状況(ニューノーマル)をも乗り越えて伸びようとする企業の、思い切った事業再構築を支援する目的で、1兆円を超える国家予算が組まれています。

ただし、申請の募集が始まろうとする局面で、事業再構築補助金の申請が通り、採択されるための条件が、おおかたの予想以上に厳しい可能性があることが、徐々に明らかになっています。

まず、明らかに採択の対象外となる新たな取り組みの種類について押さえておきましょう。

新製品・新サービスの投入をしない場合

これまで製造したことがない新製品を製造していない、これまで提供していないサービスを開始していない場合は、事業再構築補助金の対象外です。

たとえば、家具を製造する企業があるとして、過去に製造していて、現在は廃盤となっていたテーブルを、再販するような取り組みは、事業再構築補助金の対象にはなりませんのでご注意ください。

競合するライバル企業の多くが、すでに着手している製品・サービス・製造方法

他の製造業では一般的になっているサービスを、新たに始めたとしても、「企業の思い切った事業再構築を支援する目的」に該当せず、補助対象外となります。

たとえば、家電メーカーが続々と出している洗濯乾燥一体機を、ある家電メーカーが後発で出しても、業界の中でただ単に出遅れていただけですので、事業再構築補助金で採択されません。

すでにある製品・サービスの提供増量、簡単な改良、単に組み合わせを変えただけの場合

たとえば家具メーカーで、既存の製品の製造ロットを数倍に増やしたり、テーブルの使用をマイナーチェンジしたりするなどの取り組みは、やはり「企業の思い切った事業再構築を支援する目的」にあたらず、補助対象外となります。

すでにある設備で製造できる商品、提供できるサービスである場合

事業再構築補助金を受けるためには、新たな「設備投資」をしていることが一般的に求められます。

たとえ、新たな製品を開発したり、新たなサービスを提供したりしているとしても、それが今まで通りの設備を使ってできるのであれば、事業再構築補助金でサポートする必要性がないため、対象外となります。

汎用性のあるデジタル機器やソフトを新たに導入しただけの場合

たとえ新たな取り組みに使うためであっても、パソコン・スマートフォン・カメラなど、製造業以外の副業やプライベート用途など、さまざまなことに使える設備投資は、そもそもすべての補助金で対象外となります。

既存事業の売上を減らしてしまう

新型コロナウイルスの影響に対抗するための新たな取り組みが、今までの取り組みとの間で、顧客を食い合ってしまう関係にある場合は、補助金でサポートしてまで新たな取り組みを始める必要性が薄れますので、補助対象外になります。
マーケティング用語でカニバリゼーション(共食い)と呼ぶケースです。

もし、今まで製造していた椅子やテーブルと、ほぼ同じ外観や性能で、より安いセットを新たに発売するならば、今まで製造していた椅子やテーブルの売上を下げる可能性が高いので、対象外となるのです。

事業再構築補助金の「対象」になる取り組みとは?

以上に挙げた「対象外の例」を踏まえながら、対象となりうる例を浮き彫りにしていきます。

事業再構築補助金の対象になるためには、新たな取り組みが「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」「事業再編」のうち、いずれかに当てはまっていなければなりません。

製造業であることは変えない ― 新分野展開

新分野展開は、製造業が製造業であることを変えないまま、新商品を開発し、新たなマーケットに進出することです。
たとえば、椅子を造って提供していたメーカーが、その技術と経験を生かして、新たに独自開発のゲーミングチェアを販売する場合などです。

・製品等の新規性(※すでに出した商品の改良版や増量版などでないこと)
・市場の新規性(※既存顧客を減らさないこと)
・総売上高の10%以上を占めること
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。

製造業界にいたまま、別ビジネスに挑戦 ― 事業転換

業界は変えないまま、違うジャンルのビジネスに進出する場合です。
総務省の日本標準産業分類に沿えば、家具メーカーは大分類「E.製造業」の「13家具・装備品製造業」に入りますが、大分類が共通している別ジャンルの領域(食品製造業・繊維工業・金属製品製造業など)に進出する場合が対象です。

・製品等の新規性
・市場の新規性
・総売上高のうち、新事業による売上の占める割合が最大
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。

製造業界をも抜け出してチャレンジ ― 業種転換

業界も変えて、別業種に進出することです。
製造業であれば、大分類からそもそも異なる別業種のビジネス(不動産業・農業・教育・福祉など)に進出する場合が対象です。

・製品等の新規性
・市場の新規性
・総売上高のうち、新業種による売上の占める割合が最大
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。

製品の製造方法・提供方法を変える ― 業態転換

製造業であることは変えず、新商品や新サービスも投入せず、今まで通りのサービスのままで、その製造方法や提供方法(販売方法)を変えることです。

製造業であれば、次の条件をすべて満たさなければなりません。
・過去にその方法で製造した実績がない
・主要な設備を変更する(同種の設備のバージョンアップではNG)
・ライバル他社がすでに販売している製品でない
・定量的に性能または効能が異なる(その良さが測定可能である)
・総売上高のうち、新たな製品の売上高が10%以上となる見込みがある

他社とのコラボレーション ― 事業再編

製造業であることは変えず、いわゆるM&Aの手法によって状況を打開しようとする取り組みです。

次の条件を満たしていなければなりません。
・他社との吸収合併・株式交換、あるいは他社への株式移転・事業譲渡・吸収分割の方法によって、他社と法的に連携した(株式譲渡はNG)
・その上で、上記の4つの新チャレンジ(新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換)のうち、1つ以上を実施した