生産性向上のための設備投資や従業員の賃上げに取り組む中小企業や小規模事業者を支援する「業務改善助成金」は、個人事業主も利用できる助成金です。最大600万円の助成が受けられるため、設備投資や賃上げを検討している事業者はぜひ活用してみましょう。
本記事では、業務改善助成金の概要や受給要件、申請時の注意点について解説します。
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目次
業務改善助成金とは
業務改善助成金とは、生産性向上のために設備投資に取り組むとともに、事業場内最低賃金を30円以上引き上げた場合に、その設備投資にかかった費用を一部助成するものです。
業務改善助成金は賃上げの金額によって「30円コース」「45円コース」「60円コース」「90円コース」と4つのコースに分かれており、それぞれ助成金額の上限が異なります。助成金額については、本記事内でくわしく後述していますので、そちらも併せて参考にしてください。
事業場内最低賃金について
賃上げの対象となる「事業場内最低賃金」とは、その事業場内で最も低い時給のことです。事業場内最低賃金の算出方法は最低賃金法によって定められており、時間給制や日給制、月給制によってそれぞれ算出方法が異なります。
たとえば、月給制の場合は「月給÷1ヶ月平均所定労働時間」によって算出し、その中には時間外勤務手当や休日出勤手当などの所定外給与は含まれません。
なお、出来高制など賃金の取り決めが複雑で最低賃金が算出できない場合は、管轄の労働局へ相談してみましょう。
個人事業主でも業務改善助成金は申請できる?
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者を対象としているため、個人事業主でも申請が可能です。
ただし業務改善助成金は、従業員の事業場内最低賃金を引き上げることを支援する助成金であることから、従業員を雇用していない個人事業主は申請することができません。
業務改善助成金の受給要件とは
業務改善助成金の申請を行う事業者は、下記3つの要件を満たす必要があります。
- 中小企業・小規模事業者であること
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
それぞれくわしく内容を確認していきましょう。
中小企業・小規模事業者であること
業務改善助成金の対象事業者は、中小企業および小規模事業者です。中小企業・小規模事業者には細かい定義が決められており、下記のAもしくはBを満たすことが条件となります。
業種 | A:資本金または出資額 | B:常時使用する労働者 | |
小売業 | 小売店、飲食店など | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 宿泊業、医療福祉、複合サービス業、物品賃貸業など | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 卸売店 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 農業、林業、漁業、建設業、製造業、運輸業、金融業など | 3億円以下 | 300人以下 |
なお、複数の事業場を持つ事業者については、事業場ごとに申請を行います。
事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
賃上げの対象となる事業場内最低賃金は、「地域別最低賃金」との差額が50円以内でなければなりません。地域別最低金銀とは、厚生労働省が毎年10月頃に公表する都道府県単位の最低賃金額のことです。
たとえば、2023年度における東京都の最低賃金は1,113円ですので、すでに事業場内最低賃金が1,163円を超えている事業者は業務改善助成金の申請の対象外となります。
地域別最低賃金は厚生労働省のホームページで確認できるため、事業場を置く都道府県の最低賃金を確認しておきましょう。
解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
業務改善助成金には、助成金の交付を行わない「不交付要件」が定められています。下記はその一部です。
- 従業員を解雇した場合
- 従業員の時間あたりの賃金を引き下げた場合
- 所定労働時間の短縮もしくは所定労働日の減少によって月あたりの賃金額を引き下げた場合
- 同一の助成対象経費や賃金引上げを対象として、補助金・助成金の交付を受けている場合
この他にも、労働保険料を滞納している場合や労働関係法令に違反している場合も業務改善助成金の対象外となります。交付申請を行う際は、不交付要件をきちんと確認しておきましょう。
業務改善助成金を受給するために必要な事項
業務改善助成金を受給するためには、次の3点に取り組む必要があります。
- 賃金引上げ計画を策定すること
- 引上げ後の賃金額支払い
- 生産性向上のための設備導入・支払い
それぞれくわしく解説していきましょう。
賃金引上げ計画を策定すること
業務改善助成金の交付申請にあたって、「賃金引上げ計画」を策定します。賃金引上げ計画とは、雇用から3ヶ月を経過した従業員の事業場内最低賃金を引き上げるための事業計画です。
引き上げ額は「30円コース」「45円コース」「60円コース」「90円コース」の4種類に分かれており、申請するコースに応じて引き上げ額の策定を行います。また、その引き上げ額については就業規則などで従業員の最低賃金として定めることも条件です。
なお、事業場の規模が50人未満の事業場については、事業場内最低賃金引き上げた後に交付申請を行うこともできます。
引上げ後の賃金額支払い
賃金引上げ計画の策定後は、2023年12月31日までに計画書で定めた金額まで賃上げを行い、就業規則などにもその旨を明記します。
なお、先ほど事業場の規模が50人未満の事業場については、賃上げの後でも交付申請が行えると伝えましたが、この場合は賃金引上げ計画の代わりに「賃金引き上げ結果」を提出してください。
生産性向上のための設備導入・支払い
業務改善助成金では、生産性向上のための設備を導入することも要件のひとつです。
対象となる経費は「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」となっており、事業に幅広く役立てられます。たとえば、POSレジシステムや経理システム、工場で使用する機械などの他に、業務フロー見直しのために依頼したコンサルティング料なども助成対象です。
ただし、これらの設備等は交付決定後に導入・支払いを行う必要があります。交付決定前に導入・支払いを行ったものについては、助成の対象外となりますので注意しましょう。
事業場の条件や助成額
業務改善助成金の対象となる事業場にはいくつかの条件が設けられています。ここからは、事業場の条件や助成額について確認していきましょう。
業務改善助成金の助成対象となる事業場
業務改善助成金の助成対象となる事業場とは、従業員が働く労働拠点のことです。たとえば、工場や店舗、事務所などが例として挙げられます。
業務改善助成金では事業場単位で交付申請を行いますので、複数の拠点を持つ事業者は事業場ごとに助成金を受給することも可能です。
気になる業務改善助成金の助成額は?
業務改善助成金では、引き上げる最低賃金額や引き上げる従業員の人数によって助成上限額が異なります。
たとえば、30円コースで賃金を引き上げる従業員が5人の場合、事業場規模が30人以上で最大70万円、30人未満で最大100万円の助成金を受けられます。
ただし、事前の計画通りに賃上げが行えない場合は助成金の対象外となりますので、どのコースを選ぶかは事前にしっかりと検討しましょう。
個人事業主が業務改善助成金を申請する際の注意点とは
業務改善助成金は、従業員を雇用していれば個人事業主でも交付申請が行なえます。ここでは、個人事業主が交付申請を行う際の注意点を確認していきましょう。
事業完了期限を確認する
業務改善助成金では、「事業完了期限」が設けられています。
事業が完了したとみなされるのは、下記3つのいずれか遅い日です。
- 導入機器等の納品日
- 導入機器等の支払完了日(銀行振込日もしくはクレジットカードの引き落とし日)
- 賃金引上げ日(就業規則等の改正日)
2023年度の申請分では、2024年2月28日までに事業を完了する必要があります。期限内に手続きをスムーズに進めるためにも、計画的に設備導入や賃上げに取り組みましょう。
交付申請書提出前の賃上げは対象外となる
業務改善助成金では、交付申請書を提出する前に取り組んだ賃上げは、助成金の対象外となります。賃上げの実施や就業規則の改訂は、交付決定の通知を受け取った後に行うようにしましょう。
なお、前述の通り、事業場の規模が50人未満の事業場については、賃上げを行ったあとに交付申請を行うこともできます。この場合は「賃金引き上げ計画」ではなく、「賃金引き上げ結果」を提出して交付申請を行います。
画像引用:厚生労働省「業務改善助成金」
設備投資は交付決定通知後に実施する
設備投資についても、賃上げと同様に交付決定通知が届いた後に実施します。交付決定前に導入した設備については助成の対象外となりますので、必ず交付決定の通知を受けてから導入・支払いを行ってください。
また、設備投資のタイミングについては、賃上げ後に交付申請を行う事業場も同様です。50人未満の事業場は賃上げ後に交付申請を行うことが認められていますが、設備投資については通常通り交付決定通知後に行わなければなりません。
申請時は、事業実施のフローをよく確認しておきましょう。
まとめ
業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資や従業員の賃上げを支援する助成金です。申請は事業場単位で行うため、複数の拠点がある事業者は事業場ごとに助成金を受給することができます。
また、従業員がいれば個人事業主でも利用できますので、ぜひ積極的に活用を検討してみましょう。