新型コロナウイルスによる感染拡大や、経済活動の落ち込みによって、売上が大きく減少した業界は多く、建設業界も決して例外ではありません。
建設現場では、接客をするわけではありませんので、緊急事態宣言・外出自粛要請の影響を受けにくいです。広い空間で作業することが多く、建設作業員同士のソーシャルディスタンスを保つことも難しくないでしょう。
ただ、コロナ禍の影響で売上が大きく下がった発注元から、工事の延期や取りやめを通告されることが多くなりました。また、新規の受注も難しくなっています。そのせいで建設業界の売上も間接的に落ち込んだのです。
建設業界での倒産件数も増えていて、東京商工リサーチの調査によれば、倒産の約9割が中小・零細規模の会社だとされています。大手ゼネコンが手がける大規模開発は、コロナ禍の影響をあまり受けず、工務店などの中小零細の建設業者のほうが、大きなあおりを受けているのです。
しかし、その厳しい状況下でも、今までにないサービスを展開したり、果敢に新たな事業に進出したりして、業績の回復を目指そうとする建設業者もあります。
そのような新たな時代の変化を見据えて、しなやかに対処しようとする建設業者のチャレンジを後押しするのが、2021年に始まる「中小企業等事業再構築推進補助金」(事業再構築補助金)です。
ただし、初めて行われる補助金事業のため、建設業者のどのような新しいチャレンジが、補助の対象となるのか、明らかになっていない点もあります。
そこで、2021年3月時点で公表されている内容をくまなく読み解きながら、事業再構築補助金が採択される可能性が高い、建設業界の新たな取り組みについて解説します。
事業再構築補助金の「対象外」になる取り組みとは?
まず、明らかに採択の対象外となる新たな取り組みの種類について押さえておきましょう。
新製品・新サービスの投入をしない場合
これまで製造したことがない新製品を製造していない、あるいは、これまで提供していないサービスを開始していない場合は、事業再構築補助金の対象外です。
たとえば、住宅メーカーの場合、過去に販売していた注文住宅のタイプで、販売不振のために数年間も発売を中止していたのを、このウィズコロナ時代に合うと考えて再販する、ような取り組みは、「新製品の製造」に当たらず、補助の対象外です。
競合するライバル企業の多くが、すでに着手している製品・サービス・製造方法
すでに建設業界内では一般的になっている商品やサービスを、後追いで新たに始めただけならば、補助対象外となります。なぜなら、事業再構築補助金が導入された理由である「企業の思い切った事業再構築を支援する目的」に該当していないからです。
すでにある製品・サービスの提供増量、簡単な改良、単に組み合わせを変えただけの場合
たとえば住宅メーカーであれば、受注件数を増やしたり、床面積が少し広いタイプを加えたりするなどの取り組みは、やはり「企業の思い切った事業再構築を支援する目的」にあたらず、補助対象外となります。
すでにある設備で製造できる商品、提供できるサービスである場合
事業再構築補助金を受けるためには、新たな「設備投資」をしていることが前提とされています。
よって、今まで通りの設備を使ってできるのであれば、たとえ新たな製品やサービスの開発・提供を実施しているとしても、補助の対象外となってしまいます。
汎用性のあるデジタル機器やソフトを新たに導入しただけの場合
たとえ新たな取り組みに使うためであっても、パソコン・スマートフォン・カメラなど、建設業務以外でもさまざまなことに使える設備投資は、そもそもすべての補助金で対象外となります。
建設業界であれば、設計・測量など、本業専用で使える設備や機器であることが望ましいです。
既存事業の売上を減らしてしまう場合
新たな取り組みが、今までの取り組みとの間で、顧客を食い合ってしまう関係にある場合は、補助金でサポートしてまで新たな取り組みを始める必要性が薄れますので、補助対象外になります。
たとえばハウスメーカーであれば、今まで提供していた住宅のタイプと、ほぼ同じ大きさや仕様で、廉価版を新たに発売するならば、今までの住宅の売上を下げる可能性が高いので、対象外となる可能性が高いです。
事業再構築補助金の「対象」になる取り組みとは?
では、以上に挙げたような「対象外の例」を踏まえまして、改めて対象となる例について挙げていきます。
事業再構築補助金の対象になるためには、建設業者の新たな取り組みが、この補助金事業が求める事業再構築指針に沿っている必要があります。
より具体的には「新分野展開」「事業転換」「業種転換」「業態転換」「事業再編」の、いずれかに当てはまっていなければなりません。
建設業であることは変えない ― 新分野展開
建設業者が建設御者であり続けたまま、新商品を開発し、新たなマーケットに進出することが、事業再構築補助金でいう「新分野展開」と呼ばれる分類です。
たとえば、住宅メーカーが、新たに郊外や山地での別荘などの用途として、ログハウスを販売する場合などです。
・製品等の新規性(※すでに出した商品の改良版や増量版などでないこと)
・市場の新規性(※既存顧客を減らさないこと)
・総売上高の10%以上を占めること
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。
建設業界にいたまま、別ビジネスに挑戦 ― 事業転換
業界は変えないまま、違うジャンルのビジネスに進出する場合です。
総務省の日本標準産業分類に沿えば、住宅メーカーは大分類「D.建設業」に入りますが、この大分類が共通している別ジャンルの領域(建築リフォーム工事業・設備工事業など)に進出する場合が対象です。
・製品等の新規性
・市場の新規性
・総売上高のうち、新事業による売上の占める割合が最大
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。
建設業界をも抜け出してチャレンジ ― 業種転換
業界も変えて、別業種に進出することです。
美容室であれば、大分類からそもそも異なる別業種のビジネス(不動産業・製造業・教育・福祉など)に進出する場合が対象です。
・製品等の新規性
・市場の新規性
・総売上高のうち、新業種による売上の占める割合が最大
以上の条件をすべて満たしていなければなりません。
建設サービスの提供方法を変える ― 業態転換
建設業であることは変えず、新商品や新サービスも投入せず、今まで通りのサービスのまま、その提供方法を変えることです。
非製造業に該当する建設業であれば、次の条件をすべて満たさなければなりません。
・既存の設備を一部または全部撤去していること あるいは、IT技術を新たに活用していること
・総売上高のうち、新提供方法によるサービス売上の占める割合が最大
たとえば、注文住宅を販売しているハウスメーカーが、住宅の建築中に、発注主が映像で建設現場を見られたり、現場のリーダーと会話をしたりする、新体験を追加するサービスを行うとします。
そのオンラインサービスのため、専用の照明やマイク、高速無線通信回線を導入した場合は、補助対象になる可能性があります。
ただし、これらの機材は汎用性が高いので、新サービス以外の使い道に流用されないことを合理的に説明する必要があるでしょう。
他社とのコラボレーション ― 事業再編
建設業であることは変更せず、いわゆるM&Aの手法によって状況を打開しようとする取り組みです。
次の条件を満たしていなければなりません。
・他社との吸収合併・株式交換、あるいは他社への株式移転・事業譲渡・吸収分割の方法によって、他社と法的に連携した(株式譲渡はNG)
・その上で、上記の4つの新チャレンジ(新分野展開・事業転換・業種転換・業態転換)のうち、1つ以上を実施した。
事業再構築補助金 製造業について