事業承継補助金は、正式名称を「事業承継・引継ぎ補助金」と呼び、中小企業庁ひいては経済産業省によって管轄されています。企業経営の世界でも高齢化が進み、引退したくても「会社の跡継ぎがいない」「社内や家族で後継者が見つからない」「誰も名乗りを上げない」と悩む経営者が増えています。
とはいえ、これまで長年にわたって培ってきた取引先との付き合い、顧客リスト、情報交換のネットワーク、従業員の実務経験などの貴重な経営資源を、跡継ぎがいないという理由で放棄するのは、非常に惜しいことです。
そこで、社外に目を向けて後継者を探す事業承継、あるいは事業承継に伴うM&A(合併・買収・組織再編など)が注目されているのです。そうした事業承継に必要となる経費の一部を補助し、ひとつの会社が持つ貴重な経営資源を将来へと繋いでいくのが、いわゆる事業承継補助金の大切な役割とされています。
中小企業の事業を末永く継続させていく経営者の取り組みを支援する目的において、小規模事業者持続化補助金に性質が近いといえます。しかし、販路の拡大や生産性の向上を主な目的としている持続化補助金とは異なり、引退しようとしている経営者が別の事業者にバトンタッチする事業承継の場面に特化しているのが、事業承継補助金の特徴です。
事業承継補助金には、2×2の「4種別」が用意されています。
事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)
経営の引き継ぎをきっかけとして、経営革新などに取り組もうとしている事業者を支援します。
具体的な補助範囲は、人件費や設備、広報に関する費用などの「事業費」と、登記や在庫処分、解体、原状回復に関する費用などの「廃業費」です。
対象経費の「2分の1以内」の範囲で補助が行われます。
内訳は次の2種類です。
経営者交代型
2017年4月~2021年末の間に、元の代表者が退任したか、事業譲渡を終えている中小企業の事業を新たに受け継いだ代表者に、会社経営の経験や同業種での実務経験などが備わっている場合が対象です。
補助額は100万円~250万円の範囲ですが、200万円以内の特別な上乗せがされる場合があります。
M&A型
2017年4月~補助金申請の時点までに、事業再編・事業統合を終えている(あるいは2021年末までに完了予定の)中小企業者で、補助金の対象となる事業に経営革新の要素が認められる場合が対象です。
補助額は100万円~500万円の範囲ですが、200万円以内の特別な上乗せがされる場合があります。
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)
経営の引き継ぎのために、専門家契約を締結した場合、そのための費用(M&Aコンサルタントなどへの報酬)の一部を補助します。
対象経費の「2分の1以内」の範囲で補助されるものと定められています。
補助額は50万円~250万円の間です。
内訳は次の2種類です。
買い手支援型
事業再編ないし事業統合によって、ある企業の経営資源を引継ぎを行う予定の中小企業で、今後、お互いの相乗効果を活かした経営革新等を行う、あるいは地域経済全体を牽引する事業を行うことが見込まれる場合が対象です。
売り手支援型
すでに地域経済全体を牽引する事業を進めていて、事業再編ないし事業統合によって、自社の経営資源を譲り渡す予定の中小企業であり、今後も後継者によって事業が継続されると見込まれる場合が対象です。売り手支援型に限っては、補助額が特別に200万円まで上乗せされる場合があります。
2020年(令和2年度)からの変更点
令和2年に実施された事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)においては、「新事業展開等要件」または「生産性向上要件」といった、経営革新を具体化させている実態を示す要件を満たさなければなりませんでした。しかし、令和3年度にはこれらの要件が撤廃されています。補助金を申請するハードルが下がったといえるでしょう。
事業承継補助金事業の具体的なスケジュール
最後に、2021年(令和3年度)の事業承継補助金に関するスケジュールを紹介します。
補助金の申請を受け付ける期間(公募期間)は、2021年9月30日(木)〜10月26日午後6時までの予定です。
受付窓口は、中小企業庁から委託を受けた「事業承継・引き継ぎ補助金事務局(デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社)」となっています。
2021年11月中旬ごろに交付決定が出される予定で、その決定日から年末(12月31日)までに支出された経費の2分の1までが、2022年3月下旬頃に補助金として交付されます。
以上の一連の手続きは、補助金電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を通じて行わなければなりません。このjGrantsを利用するためは「gBizIDプライム」アカウントが必須ですので、事前に取得しておきましょう。