ものづくり補助金は、中小企業や小規模事業者が革新的な製品・サービスの開発や生産性向上に取り組む際に活用できる、国の代表的な支援制度です。しかし、申請すれば誰でも受けられるわけではなく、公募要領で定められた複数の「要件」を満たす必要があります。
そこで本記事では、申請者が押さえておくべき基本要件から、申請する枠や特例に応じた追加要件をわかりやすく解説。さらに、採択率を高めるために抑えておきたい加点項目までご紹介します。申請準備の第一歩として、ぜひご活用ください。
目次
ものづくり補助金の申請時に満たす必要がある「要件」とは?
公募要領における「要件」とは、補助金の申請や採択を受けるために満たさなければならない条件や基準のことです。
要件には「誰が申請できるか」「どんな事業が対象か」「どのような数値目標の達成が必要か」といった、申請者・事業・成果に関する具体的な基準が含まれます。
申請段階で要件を満たしていない場合は審査対象外・不採択扱いとなり、採択後に要件を満たしていないことが判明した場合は採択取消しや補助金返還となります。
2025年度ものづくり補助金の基本要件を解説
2025年度のものづくり補助金では、補助対象となるために満たすべき要件として、4つの要件が設けられています。
【2025年ものづくり補助金の基本要件】
・付加価値額の増加要件
・賃金の増加要件
・事業所内最低賃金水準要件
・従業員の仕事・子育て両立要件(※)
※:従業員数21名以上の場合のみ
ここでは、それぞれの要件の詳細を解説します。なお、2025年のものづくり補助金の制度詳細については、下記の記事をご覧ください。
ものづくり補助金とは?2025年の申請方法や対象事業、金額などを解説
付加価値額の増加要件
ものづくり補助金では、補助事業終了後3~5年間の事業計画期間において、事業者全体の「付加価値額(営業利益・人件費・減価償却費の合計)」の年平均成長率を3.0%以上増加させることが必須条件とされています。
申請時には、この基準値を上回る自社独自の目標値を設定し、事業計画期間の最終年度にその達成を目指します。計画は単なる予測ではなく、達成のための具体的な施策や根拠が必要であり、審査でもその実現可能性が評価されます。
この要件を満たすためには、単なる売上増加だけでなく、高付加価値な製品・サービスの開発、生産効率の向上、人材活用や技術力強化による利益改善など、付加価値額を押し上げる取り組みが求められます。
賃金の増加要件
ものづくり補助金の申請にあたっては、補助事業終了後3~5年間の事業計画期間において、従業員および役員それぞれの賃金水準を継続的に引き上げることが求められます。
この「賃金の増加要件」には、下記の2点の指標が設けられており、申請時点で目標値を設定したうえで、事業計画期間の最終年度に少なくとも一方を達成する必要があります。
【賃金の増加要件の目標値】
- 給与支給総額の年平均成長率を2.0%以上にする
- 従業員および役員それぞれの1人あたり給与支給総額の年平均成長率を、事業実施都道府県の直近5年間の最低賃金の年平均成長率以上にする
ここでいう給与支給総額は、従業員や役員に支払う給料・賃金・賞与・役員報酬などを指し、福利厚生費や退職金は含まれません。1人あたり給与支給総額は、この総額を従業員数・役員数で割った値です。
なお申請時には、設定した目標値を全従業員や役員に表明することが義務付けられており、未表明や未達成の場合には補助金の返還や交付決定の取消し対象となります。
なお、この要件が設けられている関係上、従業員数が0名の事業者はものづくり補助金に申請することができません。
事業所内最低賃金水準要件
ものづくり補助金では事業所内で最も低い賃金(事業所内最低賃金)を、毎年の地域別最低賃金より30円以上高い水準に維持することが義務付けられており、これを示したのが「事業所内最低賃金水準要件」です。
この要件における「事業所」とは、申請時に登録した補助事業の主たる実施場所を指し、その場所で働く全従業員のうち最も低い時間給額が基準となります。申請時には、自社で設定した事業所内最低賃金目標値(基準値+30円以上)を従業員等に表明し、事業計画期間の各年度末時点で達成している必要があります。
年度ごとに未達の場合は補助金の返還義務が発生するほか、目標値を従業員等に表明していなかった場合には交付決定の取消しや全額返還となる可能性があります。
従業員の仕事・子育て両立要件
「従業員の仕事・子育て両立要件」は従業員数が21名以上の事業者に限り設けられている要件です。この要件では、「次世代育成支援対策推進法」第12条にて規定される一般事業主行動計画の策定と公表を行うことが求められています。
具体的には、申請締切日時点で有効な一般事業主行動計画を策定し、厚生労働省の「両立支援のひろば」サイトに公表しなければなりません。この公表手続きには1〜2週間程度かかるため、申請の少なくとも3週間前には準備を始めることが推奨されています。
また、計画内容には、仕事と家庭の両立を支援するための目標や取り組み内容を明確に盛り込み、可能な限り都道府県労働局への届出も行うことが望ましいとされています。
グローバル枠への申請に必要な追加要件を解説
2025年のものづくり補助金では、海外事業を実施し、国内の生産性を高める取り組みに必要な設備・システム投資などを支援する「グローバル枠」が設けられています。
グローバル枠に申請する場合、基本要件に加えて海外事業の性質に応じた追加要件「グローバル要件」を満たす必要があります。
【グローバル要件】
- グローバル要件①:海外への直接投資に関する事業
- グローバル要件②:海外市場開拓(輸出)に関する事業
- グローバル要件③:インバウンド対応に関する事業
- グローバル要件④:海外企業と共同で行う事業
ここからは、上記で挙げている「グローバル要件」の詳細を解説します。
グローバル要件①:海外への直接投資に関する事業
この要件に該当するのは、国内事業と海外事業を一体的に強化し、グローバルな製品・サービスの開発・提供体制を構築することで国内拠点の生産性向上を図る事業です。具体的には以下の条件を全て満たす必要があります。
【グローバル要件①の詳細】
1.補助対象経費の2分の1以上が海外支店または海外子会社の事業活動に充てられること
→海外子会社は、発行済株式総数または出資総額の2分の1以上を申請者が所有する会社に限る
→対象経費は外注費や貸与する機械装置・システム構築費など(一般管理費は対象外)
2.国内の補助事業実施場所でも、海外事業と一体的な設備投資(単価50万円以上)を行うこと
3.申請時に海外子会社等の事業概要・財務諸表・株主構成資料を提出すること
4.実績報告時に海外子会社等との契約書や事業完了報告書を提出すること
この要件を満たすためには、単なる海外拠点の設立ではなく、国内と海外を結びつけた生産性向上の仕組みが必要です。さらに、現地事業の実現可能性調査や、海外事業の専門人材確保または外部専門家との連携も求められるため、事業計画段階から詳細な準備と資料の確保が不可欠です。
グローバル要件②:海外市場開拓(輸出)に関する事業
グローバル要件②は、海外市場への輸出を目的とした事業に関する条件です。
この要件では、海外展開を目指す製品・サービスの開発や改良、ブランディング、新規販路開拓などに取り組むことが前提となり、次の条件をすべて満たす必要があります。
【グローバル要件②の詳細】
1.国内に補助事業実施場所を有すること
2.製品・サービス等の最終販売先の半数以上が海外顧客であり、事業計画期間中、補助事業による売上累計額が補助額を上回ること
3.申請時に、事前のマーケティング調査に基づき、想定顧客が具体的に特定されている海外市場調査報告書を提出すること
4.実績報告時に、想定顧客による試作品等の評価結果を示す性能評価報告書を提出すること
この要件を満たすためには、単なる輸出計画ではなく、販売先・顧客層の明確化と市場性の検証が不可欠です。現地の需要や競合環境を踏まえた商品開発・改良計画、販売戦略を示し、売上見込みが補助額を十分に上回ることを裏付ける根拠資料を揃えることが、採択の鍵となります。
グローバル要件③:インバウンド対応に関する事業
グローバル要件③は、訪日外国人(インバウンド)需要の獲得を目的とした事業に関する条件です。
この要件では、国内で提供する製品・サービスの開発・提供体制を構築し、海外からの来訪者を主要顧客とすることが前提となり、次の条件をすべて満たす必要があります。
【グローバル要件③の詳細】
1.国内に補助事業実施場所を有すること
2.製品・サービス等の販売先の半数以上が訪日外国人であり、事業計画期間中、補助事業による売上累計額が補助額を上回ること
3.申請時に、想定顧客が具体的に特定されているインバウンド市場調査報告書を提出すること
4.実績報告時に、プロトタイプや試作品を用いた検証結果を示す仮説検証の報告書を提出すること
この要件を達成するためには、単に外国語対応や施設改修を行うだけでなく、ターゲットとする訪日外国人層の明確化と、そのニーズに即した商品・サービス開発が重要です。また、訪日需要の季節変動や旅行形態の多様化を踏まえ、安定的に売上を確保できる計画を立てることが、採択と事業成功の鍵となります。
グローバル要件④:海外企業と共同で行う事業
グローバル要件④は、海外企業との共同研究や共同事業開発を通じて新たな成果物を創出する事業に関する条件です。
この要件では、国内外の企業が協力して製品・サービスを開発し、その成果物の権利の全部または一部が申請者に帰属することが前提となります。具体的には、次の条件をすべて満たす必要があります。
【グローバル要件④の詳細】
1.国内に補助事業実施場所を有すること
2.外国法人との共同研究・共同事業開発に伴う設備投資等があること(海外法人の経費は補助対象外)
3.成果物の権利が申請者に全部または一部帰属すること
4.申請時に、共同研究契約書または業務提携契約書(検討中の案を含む)を提出すること
5.実績報告時に、契約の進捗が分かる報告書を提出すること
この要件を達成するためには、単なる取引関係ではなく、研究開発や製品化において相互に役割分担を行い、知的財産を確保する体制が求められます。契約内容や成果物の権利関係を明確化し、双方にとって利益となる協力関係を構築することが、採択と事業成功の重要な鍵となります。
特例の適用時に満たす必要がある追加要件を解説
2025年のものづくり補助金では、補助上限金額の上乗せや補助率が向上する「特例措置」が設けられています。この特例措置の適用を申請する際にも、満たすべき要件が存在します。
【特例措置要件】
・大幅な賃上げに係る補助上限額引上げの特例適用要件
・最低賃金引上げに係る補助率引上げの特例適用要件
ここからは、上記で挙げている「特例措置要件」の詳細を解説します。
大幅な賃上げに係る補助上限額引上げの特例適用要件
2025年度のものづくり補助金では、一定の賃上げ計画を上回る取組を行う事業者に対して、従業員規模に応じて最大100万円~1,000万円まで補助上限額を引き上げる「大幅な賃上げ特例」が設けられています。
この特例を適用するためには、基本要件で設けられている「賃金の増加要件」および「事業所内最低賃金水準要件」をさらに上回る数値目標を設定・達成することが必要です。具体的には、以下の条件をすべて満たす必要があります。
【大幅な賃上げに係る補助上限額引上げの特例適用要件】
1.給与支給総額基準値+4.0%以上(合計年平均6.0%以上)の成長を目指す「特例給与支給総額目標値」を設定し、事業計画期間最終年度に達成する
2.事業所内最低賃金基準値+20円以上(合計+50円以上)の水準を目指す「特例事業所内最低賃金目標値」を設定し、毎年達成する
3.上記目標値を交付申請時までに全従業員または従業員代表者、役員に表明する
なお、計画期間中にいずれかの目標を達成できなかった場合、表明が行われなかった場合は、補助上限額引上げ分に加え、未達成率に応じた補助金返還が求められます。
最低賃金引上げに係る補助率引上げの特例適用要件
「大幅な賃上げ特例」と同じ特例として設けられているのが、「最低賃金引上げに係る補助率引上げの特例」です。これは、特定の最低賃金水準の事業者が賃金引上げに取り組む場合、補助率を2/3に引き上げるという内容になっています。適用のために必要な追加要件は以下の通りです。
【最低賃金引上げに係る補助率引上げの特例適用要件】
2023年10月から2024年9月までの間で、3か月以上にわたり補助事業の主たる実施場所で雇用している全従業員のうち、事業実施都道府県の最低賃金+50円以内で雇用している従業員が30%以上いること
この特例は、特に小規模企業・小規模事業者や賃金水準が地域最低賃金に近い企業にとって、自己負担割合を大きく軽減できるメリットがあります。
なお、特例措置の申請にあたっては申請時に、該当3か月分の賃金台帳(対象従業員分)および労働者名簿(実施場所内全員分)の提出が必要です。
要件とあわせて確認しておきたい「加点要素」
ものづくり補助金では、各種要件に加えて、申請内容に応じて審査時の評価点が上乗せされる「加点項目」が設定されています。加点項目を意識した事業計画を策定し申請することで、採択率の向上が期待できます。
2025年度(第21次公募)の加点項目は以下の通りです。
【2025年度ものづくり補助金の加点項目】
①経営革新計画
②パートナーシップ構築宣言
③再生事業者
④DX認定
⑤健康経営優良法人認定
⑥技術情報管理認証
⑦J-Startup、J-Startup地域版
⑧新規輸出1万者支援プログラム(グローバル枠のみ)
⑨-1事業継続力強化計画/連携事業継続力強化計画
⑩賃上げ
⑪被用者保険
⑫えるぼし認定
⑬くるみん認定
⑭-1事業承継/M&A
⑮成長加速マッチングサービス
これらの加点項目を利用するには有効な認定・登録の取得状況や証明書類の提出が必要です。また、同時に6項目まで加点申請が可能ですが、要件を満たしていなかった場合は減点対象となるケースもあるため、申請前の確認が欠かせません。
採択率を高めるためにも、ぜひ活用したい要素ではありますが、どの加点項目が活用できるかは企業ごとに異なります。資料の準備が必要な場合も多いため、行政書士や中小企業診断士などの有資格者や認定経営革新等支援機関などの専門家へ相談し、活用可能な加点項目を早めに把握しておくのがおすすめです。
まとめ
ものづくり補助金は、事業の成長や生産性向上を後押しする大きなチャンスですが、採択を受けるためには公募要領で定められた「要件」を満たす必要があります。基本要件やグローバル枠の追加要件、特例措置の適用要件、さらに採択率を高める加点項目まで、確認すべきポイントは多岐にわたります。
さらに、本記事で解説した要件はあくまで「申請の必須条件」であり、実際の申請では採択に向けて自社の状況に合わせた事業計画の策定や資料の準備をしなければなりません。
初めてものづくり補助金への申請を検討されている方は、準備期間や申請後の流れなどについて不安な思いをお持ちかもしれません。そうした不安・疑問を早めに解消するためにも、一度専門家へ相談することをおすすめします。
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