小規模事業者持続化補助金は、幅広い業種を対象に、地道な販路開拓にチャレンジしている企業経営者や個人事業主に対して、そのチャレンジに要した経費の一部を補助する制度となっています。
2014年のスタート以降、全国の経営者からの需要の高まりとともに予算規模は拡大し、今年度はものづくり補助金やIT導入補助金と合わせて、年間3,400億円が確保されているほか、補助上限金額を底上げする「特例」も設けられています。
小規模事業者持続化補助金は、建設業を経営する会社で受け取ることもできます。ただし、申請して採択されるまでにはいくつかの条件があります。申請前によく確認しておかなければ、補助対象外の経費を申請するなどのトラブルにより時間や労力を無駄にしかねません。
この記事では、Q&A形式で、建設業界における販路拡大の事例をご紹介し、小規模事業者持続化補助金という制度の全体像を解説します。
目次
地元密着型の工務店経営者からのご相談
Q.個人事業主も小規模事業者持続化補助金でサポートしてもらえる?
「〇〇工務店」という屋号で、個人事業主・一人親方として活動している者です。おもに、地元の街の住宅やオフィスのリフォームや修繕などの案件を受注して請け負っています。独立して6年が経ちました。
今まではチラシを自分で一軒一軒ポスティングして回ったり、新聞折り込みを依頼したりしてきました。しかし、集客の効果が年々なくなっているのを感じていますので、改めてホームページを制作しようと思っています。
ホームページの制作をWebデザイナーに外注した場合、その経費は持続化補助金でサポートしてもらえるのでしょうか。そもそも、個人事業主に持続化補助金を申請する資格はあるのでしょうか?
A.個人事業主こそ持続化補助金を活用しましょう。
企業経営者だけでなく、個人事業主にも持続化補助金の申請資格があります。小規模事業者持続化補助金の申請対象となる「小規模事業者」は、法律で次のように定義されています。
【卸売業・小売業・サービス業(※ただし、宿泊業・娯楽業を除く)】
……5人以下の従業員を常時雇用する企業・個人事業主
【それ以外の業種(宿泊業・娯楽業を含む)】
……20人以下の従業員を常時雇用する企業・個人事業主
建設業は従業員20人以下であれば条件を満たしますので、従業員を雇用していない個人事業主も、問題なく持続化補助金を受け取れるのです。むしろ、従業員を多く抱える建設会社・ゼネコンのほうが、持続化補助金の申請資格が与えられていません。
一般に財務的な基盤が弱くなりがちな個人事業主こそ、補助金で国からの手厚いサポートを受けるべきなのです。
なお、ホームページの制作は「ウェブサイト関連費」として、持続化補助金の対象となります。原則として上限50万円で、補助率3分の2です。たとえば、ホームページ制作者に30万円支払えば、20万円が補助されます(10万円分が自己負担となります)。ただし、ウェブサイト関連費のみでの申請はできません。新たなチラシの制作やDMの発送など、広報費などとあわせて申請するようにしてください。
おもに公共工事を受注してきた建設会社代表からのご相談
Q.販路開拓の経費を補助金で先払いしてもらうことはできる?
これまで公共工事の受注を中心に経営してきましたが、新たに個人住宅の解体業務に着手しようと考えています。
新業態のために小型のパワーショベルを新たに購入したいのですが、購入費用を補うために補助金を先払いしてもらうことはできるのでしょうか?
A.小規模事業者持続化補助金では不可です。
小規模事業者持続化補助金では、補助金は事業終了後の交付と決められています。また、申請時には「補助事業を遂行するために必要な能力を有しているか」「実現可能性が高い補助事業を申請しているか」なども確認されるため、貴社の場合そもそも採択されない可能性が非常に高いと言えます。
なお、一部の補助金・助成金では「概算払い」という先払い制度が用意されていることがあります。概算払いを利用して事業に取り組みたい場合は、中小企業診断士や行政書士などの有資格者に相談することをおすすめします。
建設工事現場を取り仕切る建設会社の幹部からのご相談
Q.ITツールの導入費用は対象経費となりますか?
正社員15名の建設会社を30年近くにわたって運営していますが、現場ではいつも大勢の短期アルバイトを使っています。特に最近は、現場の人員配置や、什器や物資の確保など、オペレーションが複雑になってきていて、従業員の残業や事務処理ミスも増えています。
そこで、建設業に特化したRPA(事務処理自動化プログラム)を導入しようと考えているのですが、この導入費用は持続化補助金で一部まかなってもらえるのでしょうか。
h3:A.IT導入補助金の利用も検討してみてください。
建設業界は、残業や休日出勤が全般的に多いといわれています。よって、従業員の労働負担を軽くする「働き方改革」の必要性が特に高いとされますから、専用のITツールの導入は得策だと思います。
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓に加えて、業務効率化・労働生産性の向上を目的とした経費に関しても補助対象となります。よって、建設業に特化したITツールの導入費用も、対象に含まれます。
ただし、持続化補助金は上限が50万円となっていますので、高額のITツールですと企業の自己負担分が増えてしまうおそれがあります。
こうしたケースでは、IT導入補助金の活用も検討してみることをおすすめします。IT導入補助金の場合上限は150万円にまで引きあがります。補助枠に余裕があるぶん、自己負担が軽減されることも期待されます。
ただし、IT導入補助金を使えるITツールは、IT導入支援事業者(ITベンダー)が開発・提供しているものに限定される点に注意が必要です。申請に先立って、ITベンダーが提供しているものかどうか確認しておかなければなりません。
なお、ITツールの導入費用について、小規模事業者持続化補助金とIT導入補助金の両方から補助を受けると、不正受給で罰せられる危険があります。絶対に行わないでください。
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個人住宅のメンテナンスに特化した工務店からのご相談
Q.Web集客にかかる経費は対象になりますか?
同じ地域に、個人宅向けの工事を請け負う建設業者が増えてきて、競争が激化しています。そこで、ネットを中心にして広告宣伝を積極的に実施しようと計画しています。
たとえばFacebook広告を出稿したり、公式サイトのSEO対策(Googleなどの検索で、自社サイトを上位表示させるための対策)を行いたいです。こうした建設業の広告宣伝費は、どこまで持続化補助金による補助対象となるでしょうか。
h3:A.補助対象となる経費もありますが期間や内容に注意が必要です。
チラシやWebサイトの制作費用などとともに、Web広告にかかる費用やSEO対策費用も販路開拓のための経費として申請が可能です。
ただし、インスタグラムのようなSNSに出稿するWeb広告の費用は、一度支払って終わりでなく、日々課金されるものですから、採択後の補助対象期間内に支払った費用のみ(おおむね4~5か月分)が対象となります。また、SEO対策も「効果や作業内容が不明確なもの」は補助対象外となってしまいますので注意しましょう。
なお、ウェブサイト関連費のみによる申請は不可となっています。貴社の場合、新メニュー開発にかかる機械装置等費用なども必ず申請するようにしてください。また、ウェブサイト関連費は補助金交付申請額の1/4(最大50万円)が申請上限となっています。
個人事業主として活動する左官業者からのご相談
Q.インボイス制度に登録していなくても補助金は受け取れますか?
個人で左官業を営んでおり、請負元の工務店などから仕事を受けています。最近では「インボイス制度に登録していないと取引ができない」と言われることも増えてきました。
小規模事業者持続化補助金に興味がありますが、インボイス制度に登録していないと申請できないのでしょうか?また、登録している場合にどんなメリットがありますか?
A.インボイス未登録でも申請可能ですが、特例の加算は受けられません。
インボイス制度に未登録でも、小規模事業者持続化補助金への申請は可能です。ただし、インボイス制度に登録している事業者は、補助上限金額が50万円上乗せされる「インボイス特例」を利用できます。可能な限りインボイス制度への登録後に申請することをおすすめします。
【インボイス特例の適用追加要件】
・2021年9月30日から2023年9月30日の属する課税期間で、一度でも免税事業者であった事業者
・2023年10月1日以降に創業した事業者で、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者
近年は、インボイス登録の有無が取引に影響を与える場面も増えてきています。自社の状況にあわせて、補助金の検討と並行してインボイス制度への登録も検討されるとよいでしょう。
正社員を雇用している塗装業の事業者からのご相談
Q.補助上限金額を大きく引き上げる方法はありますか?
長年、外壁塗装業を営んでおり、小規模事業者持続化補助金の申請を検討しています。しかし、補助金で導入したい機器が高額なため、補助上限金額が少ない点が気になります。補助上限金額を上げる方法はありますか?
A.事業場内最低賃金を一定金額以上にすると「賃金引上げ特例」が受けられます。
補助事業の実施期間中に事業場内最低賃金を一定額以上に引き上げた場合、「賃金引上げ特例」が適用され、補助上限額が最大で150万円加算されます。さらに、業績が赤字の事業者であれば、補助率も「2/3」から「3/4」へと引き上げられ、加点審査で優遇される可能性もあります。
また、賃金引上げ特例はインボイス特例との併用が可能となっており、最大で250万円まで補助上限金額を引き上げることができます。
【賃金引上げ特例の適用追加要件】
申請事業の終了時点において、事業場内最低賃金(※)が申請時の事業内最低賃金より+50円以上であること
※:直近1か月の支給賃金を参照します。6月に申請した場合は、5月の支払賃金が参照できる賃金台帳を提出してください。また、申請時点および申請事業終了時点において、支給している事業場内最低賃金が地域別最低賃金以上である必要があります。
注意点として、特例を希望して申請した場合、要件を一つでも満たさないと補助金自体が全額不交付となる点にご留意ください。
従業員への利益還元を前提にした特例措置ですので、制度の目的を理解したうえで、無理のない賃上げ計画を立てることが重要です。
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