業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資とあわせて従業員の賃上げに取り組む事業者を支援するための助成金です。最大600万円の助成金を受けられる制度ですが、どのような事業者が対象者となっているのでしょうか。
本記事では、業務改善助成金の対象者や助成金額、申請の流れについて解説していきます。
目次
業務改善助成金はどんな助成金?
業務改善助成金とは、最低賃金の引上げに向けた環境整備を図ることを目的とした助成金です。具体的には、生産性向上のために設備投資を行い、併せて事業場内最低賃金の引き上げに取り組んだ事業場に対して、設備投資にかかった経費の一部を助成するものです。
事業場は、申請時に「事業場内最低賃金の引上げ計画」と「設備投資等の計画」の2つを立て、交付決定後に計画通り取り組むことで助成金の受給を受けられます。
業務改善助成金の対象者とは
業務改善助成金の対象者は、下記3つの条件を満たす事業場です。
- 中小企業・小規模事業者であること
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内であること
- 解雇、賃金引き下げなどの不交付事由がないこと
業務改善助成金は、中小企業だけでなく個人事業主も活用することができます。ただし、雇用する従業員がいない場合は対象外となりますので注意しましょう。
また、業務改善助成金では事業場内最低賃金の水準も大切なポイントです。
事業場内最低賃金が地域別最低賃金と50円超の差がある場合は、交付申請が行えません。この2つの差額については、事前にしっかりと確認しておきましょう。
なお、厚生労働省は最低賃金に関する特設ページも設けています。自動で地域別最低賃金額と事業場内最低賃金を比較できるツールもありますので、ぜひ活用してみましょう。
業務改善助成金の支給要件
業務改善助成金を受給するためには、次の4つの要件を満たす必要があります。
- 賃金引き上げ計画の策定
- 引上げ後の賃金額支払い
- 生産性向上のための設備の導入・支払い
- 解雇・賃金引下げ等の不交付自由がないこと
それぞれくわしく確認していきましょう。
賃金引上げ計画の策定
業務改善助成金では、事業場内最低賃金の引上げに取り組むことが支給要件となっています。引上げ額は「30円コース」「45円コース」「60円コース」「90円コース」の4つの選択肢があり、そのコースに基づいて賃金引き上げ計画の策定を行います。
計画通りに賃上げができない場合は、助成金の対象外となりますので、確実に取り組める賃金引き上げ計画を立てるようにしましょう。
引上げ後の賃金額支払い
業務改善助成金の交付が決定したら、事前に提出した計画に沿って賃上げを実施します。その際は、就業規則などで引上げ後の賃金額をその事業場における下限の賃金額と定めなければなりません。
なお、事業場の規模が50人未満の事業場については、賃上げを実施した後に交付申請を行うことも可能です。賃上げ後に交付申請を行う場合は、「賃金引き上げ計画」ではなく、「賃金引き上げ結果」を提出することとなります。
賃金引き上げ結果として認められるものは、「賃金台帳の写し」や「就業規則の写し」などです。
生産性向上のための設備の導入・支払い
交付決定後は賃上げと同時に、生産性向上のための設備導入を進めます。事前に提出した「事業実施計画書」に基づいて、導入手続きを行いましょう。
なお、設備の導入については、必ず交付決定の通知後に取り組む必要があります。交付決定の連絡を受ける前に導入した機械などは助成金の対象外となりますので注意してください。
解雇・賃金引下げ等の不交付事由がないこと
業務改善助成金では、助成の対象外となる「不交付事由」が定められています。例として、次のような条件が挙げられます。
- 従業員を解雇した場合
- 従業員の時間あたりの賃金を引き下げた場合
- 所定労働時間の短縮もしくは所定労働日の減少によって月あたりの賃金額を引き下げた場合
- 同一の助成対象経費や賃金引上げを対象として、補助金・助成金の交付を受けている場合
業務改善助成金では、従業員の賃上げがひとつの条件となっているため、賃金引下げを行った場合は助成金を受給することができません。
また、同様の補助金や助成金を重複して受給することも認められていませんので、利用したい補助金・助成金が複数ある場合は、どの枠で申請するかよく検討するようにしましょう。
業務改善助成金の生産性要件とは?
業務改善助成金では、生産性の向上に成功すると助成率が割増されます。「生産性が向上している」と認められるのは、次の条件を満たす場合です。
助成金の支給申請を行う直近の会計年度における生産性が、
①その3年度前に比べて6%以上伸びていること または、
②その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
(※②の場合は金融機関から一定の「事業性評価」を得ていることが条件)
生産性要件の適用を受ける場合は、併せて「生産性要件算定シート」も提出しましょう。
なお、他の労働関係助成金については、生産性要件が2023年3月31日付で廃止されていますが、業務改善助成金については引き続き生産性要件が設けられています。
業務改善助成金の助成金額
業務改善助成金では、どれくらいの助成金額を受けられるのでしょうか。ここからは、業務改善助成金の助成上限額や助成率、対象となる経費について解説していきます。
コース区分に関して
業務改善助成金では、賃上げを行う金額によって4つのコースが設けられています。
コースや賃上げを行う従業員数によって助成上限額が異なっており、最大600万円まで受給することが可能です。
業務改善助成金の助成率
業務改善助成金の助成率は、事業場内最低賃金の水準によって異なります。
事業場内最低賃金 | 900円未満 | 900円以上950円未満 | 950円以上 |
助成率 | 9/10 | 4/5 (9/10) | 3/4 (4/5) |
(※カッコ内は生産性要件を適用した場合)
なお、事業場内最低賃金は賃上げを行う前の申請時における水準です。
業務改善助成金の対象経費
業務改善助成金の対象となる経費は、「生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等」です。
たとえば、飲食店では食器洗浄機や業務用冷蔵庫、製造業ではペルトコンベアや生産管理システムなど、幅広い経費が対象となります。
また、機材の導入だけでなく、経営コンサルティングへの相談料や店舗の改装費なども助成金の対象です。
ただし、一般事業者については広告宣伝費や事務機器購入費、PC・タブレットの購入費などを申請することはできません。
業務改善助成金の申請までの流れ
業務改善助成金は、次の3つのステップに沿って申請手続きを行います。
①交付申請書・事業実施計画書の提出
②賃上げ・設備導入の実施
③事業実績報告書・支給申請書の提出
それぞれくわしい流れを確認していきましょう。
STEP1.交付申請書・事業実施計画書の提出
業務改善助成金の申請にあたって、「交付申請書」と「事業実施計画書」を提出します。提出先は、管轄の都道府県労働局です。
厚生労働省が交付申請前のチェックリストを公開していますので、手続き前に一度確認しておくとよいでしょう。
なお、2023年度の申請締め切りは2024年1月31日です。郵送の場合は必着ですので、余裕を持って手続きを行ってください。
STEP2.賃上げ・設備導入の実施
助成金の交付が決定したら、事前に提出した計画書に従って賃上げと設備の導入を実施します。もし事前に申請した計画に変更が生じる場合は、「計画変更申請書」を提出して承認を得なければなりません。
「導入する機械を変更したい」といった変更を希望する場合は、必ず所轄の都道府県労働局へ届け出ましょう。
また、賃上げや設備の導入は、必ず交付決定の通知を受けた後に行う必要があります。交付決定前に実施した賃上げ・設備導入は助成金の対象外となりますので注意しましょう。(※賃上げについては一部例外あり)
なお、2023年度の業務改善助成金については、2024年2月28日が事業の完了期限です。
STEP3. 事業実績報告書・支給申請書の提出
賃上げと設備導入が完了したら、「事業実績報告書」と「支給申請書」を所轄の都道府県労働局あてに提出します。
その後、都道府県労働局が支給金額を確定し、助成金が振り込まれます。
業務改善助成金では、設備導入資金を自社で支払ったあとに助成金を受け取る流れです。助成金を受け取るまでに時間がかかることもあるため、その間の資金繰りについてもよく考えておきましょう。
業務改善助成金の導入事例
業務改善助成金は機械の導入だけでなく、経営コンサルティングへの相談料や店舗改装費など幅広い経費が対象となっています。ここでは、その導入事例の一部を紹介しましょう。
- 小売店でPOSレジシステムを導入し、在庫管理にかかる時間を短縮した
- 介護福祉施設でリフト付き特殊車両を導入し、利用者の送迎時間を短縮した
- 卸売業で給与計算システムを導入し、経理業務を効率化した
- 経営コンサルティングを依頼し、生産性向上のための業務フロー見直しに取り組んだ
- 配膳スタッフの導線を改善するため店舗の改装を行った
この通り、業務改善助成金は幅広いシーンで活用することができます。ぜひ、自社ではどのように生産性向上に取り組めるか考えてみましょう。
まとめ
業務改善助成金は中小企業や個人事業主を対象とした助成金で、生産性向上や従業員の賃上げに役立てられます。
また、業務改善助成金は経費の対象が幅広いことも特徴です。機械の導入だけでなく経営コンサルティングにかかる相談料や店舗の改装費用も対象となりますので、ぜひ自社で活用できるものはないか検討してみましょう。